栄養、足りていますか?
皆さんは、「栄養不足」と聞くとどんなことをイメージするでしょうか?
豊かになった現代の日本では縁遠いように感じるかも知れません。しかし、厚生労働省のデータによると、実は65歳以上の16.8%が栄養不足になっている可能性があるのです。
在宅療養をされている方は、栄養が不足するリスクが高いため、特に注意する必要があります。
今回は、栄養不足の見極め方と対応についてご説明します。
■栄養が足りないとどうなるの?
そもそも栄養が足りないと何か悪いことが起こるのでしょうか?
栄養が足りていないと体には色々な悪影響が出てきます。
・免疫が下がる
免疫を担当するのは白血球という細胞ですが、栄養が足りないとこの白血球が十分作られなくなります。結果、免疫力が落ちて、感染症にかかりやすくなってしまいます。
・骨折しやすくなる
当然ですが、骨もカルシウムやタンパク質といった栄養から作られます。
これらが足りないことで、骨が折れやすくなってしまいます。
・筋力が落ちる
筋肉も同様にタンパク質から作られますので、栄養が足りないと筋肉の量も減ってしまいます。また、筋肉はカロリーが足りない時に非常用エネルギーとして分解されるのです。
つまり、カロリーが足りない時も筋肉は減ってしまいます。筋肉が減ると、動けなくなって寝たきりになってしまう原因になります。
・褥瘡(床ずれ)ができやすくなる
栄養が足りないと、傷の治りが悪くなったり、皮膚が弱くなることが分かっています。
そのため、褥瘡ができやくなってしまいます。
・寿命が短くなる
栄養が足りないと最終的には寿命が短くなることが分かっています。
ある研究では、栄養が足りない人と足りている人を9か月間比べて見ていった結果、亡くなる人の割合は、栄養が足りない人では足りている人の倍、多かったのです。
このように、栄養不足は在宅療養にとって大敵なのです。
■栄養不足はどうやって分かるの?
栄養不足が害とは分かっていても、実際に栄養が足りているかどうかというのはなかなか判断が難しいですよね。
そこで、私たち医療者が簡易的に使う指標をご紹介したいと思います。
・体重
体重は、栄養が足りているかの指標として最も簡便です。特に重要なのが体重の変化です。
半年で元の体重の10%が減っていると栄養不足の可能性があります。
・BMI
同じ体重でも体の大きさによって解釈が変わってきます。そのため、体重だけでなく身長も考慮した、BMIという数値が必要になります。
BMIというのは、Body Mass Index(ボディ・マス・インデックス)の略で、体格を表す指標の一つです。
体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で計算します。
例えば、身長165㎝(=1.65m)、体重60kgだと、BMIは60÷1.65÷1.65=22.0となります。
このBMIが20を下回ると、介護度が高くなったり、早く亡くなることが分かっています。
・二の腕の太さ(上腕周囲長)
在宅療養をされている方では、なかなか体重測定が難しい場合も多いかと思います。
そんな時は、二の腕の太さが参考になります。
測り方は簡単です。肩と肘のおおよそ中間地点で、腕の太さを測れば良いのです。
この太さが男性で23㎝、女性で22㎝を下回っていると、栄養不足の可能性があります。
・アルブミン
血液検査を定期的にされている方では、「アルブミン(ALB)」という数値が参考になります。
この数値が、3.5を下回っていると栄養不足の可能性があります。
これらの項目に一つでも当てはまった場合には、栄養について一度見直してみることをお勧めします。
■栄養はどうやって摂ったらいいの?
では、実際に栄養を摂るにはどうしたら良いのでしょうか。
栄養と一口に言っても、エネルギー、タンパク質、ビタミン、ミネラルなど、必要な栄養素はいくつかあり、それぞれ含まれる食品が異なります。
とは言っても、栄養を摂ることばかりに目が行き、ご本人ご家族ともにストレスが溜まってしまうようでは本末転倒ですよね。
楽しく食事を摂るということも、人生を豊かにするために大切ではないでしょうか。
一度、かかりつけ医や栄養士さんにご相談されると良いでしょう。
<終>
この記事を書いた人:
安間 章裕(アンマ アキヒロ)
日本内科学会認定総合内科専門医・日本感染症学会認定専門医
2010年 浜松医科大学医学部卒業。亀田総合病院総合診療科、感染症科での研鑽を経て、茨城で在宅医療の立ち上げを行う。その後、地元である静岡県で感染症業務、在宅医療に携わっている。
尿漏れ予防は毎日の引き締めから!
【ウエルライフ地域リハビリテーション・看護センター所長/作業療法士 山田京子先生ご寄稿】
骨盤底筋を鍛えることで、尿漏れを防ぐことができます。今回は尿漏れを防ぐリハビリテーションをお知らせします。
<ハンモックのゆるみに注意!>
図のように骨盤底筋群は骨盤にハンモックのようについています。加齢とともに筋力が落ちゆるんでくるのは、想像しやしですね。
特に女性は妊娠や出産を経る方も多く、骨盤底筋群に負担がかかりがちです。考えてみましょう。ハンモックの上に生まれる前の赤ちゃん(3kgくらい)を載せていたら、ハンモックは下にさがりますよね。出産の際は開くわけですから、横に伸びてしまいます。
体の中のことで見えない分30代から骨盤底筋群のゆるみが始まっているのです。
でも以下の体操を日々の生活の中で心がけて頂ければ大丈夫。かくゆう筆者も咳をしたり、深くおしりを落として座った時の尿漏れに悩みましたが、現在は、その心配はなく過ごしています。
<骨盤底筋を鍛える体操>
①*上を向いて寝ます。
②肩幅に開いた両膝を曲げ、両手をおなかの上に置きます。
③ゆっくりとした呼吸で、肛門→尿道→膣の順に陰部全体を引き締めていきます。ぎゅっと引き締まったらからだをリラックスさゆるめます。
④「引き締める」「ゆるめる」を交互に行って下さい。
*慣れてきたら、椅子に座ったり、立っている時でも意識して行って下さい。
<男性の尿漏れ>
尿漏れは女性だけではありません。男性の場合は前立腺の病気で始まることも多く、そのサインを見逃さないようにしたいものです。
早期発見により薬物療法が効果を上げます。男性の方も心を引き締めましょう!
褥瘡(床ずれ)の効果的な予防方法
あっ危ない!!転倒を防ごう!
延命治療、する?しない?
少し前にポスターで話題となった「人生会議」をご存知でしょうか?
人生会議とは簡単に言うと、万一の時に延命治療を行うかどうか、大切な人たちと話し合っておきましょう、という内容です。
皆さまは「延命治療」に対してどんなイメージを持っておられますか?
あまりポジティブなイメージを持つ方は多くないのではないでしょうか。
今回は、延命治療とは何か、またどのように考えていくべきかについて述べさせて頂きたいと思います。
■「延命治療」とは?
そもそも、延命治療とは一体どのような治療なのでしょうか?
実は延命治療には明確な定義はないようです。
平成20年の日本学術会議の資料(第1回終末期懇談会対外資料)によると、「終末期であることを前提にして考えるなら、「延命処置とは生命維持処置を施すことによって、それをしない場合には短期間で死亡することが必至の状態を防ぎ、生命の延長を図る処置・治療のことをいう」というのが、妥当な定義と思われる。」とされています。
少し分かりにくいですが、延命治療というのは、
1. 終末期(=回復の見込みがなく予想される残りの寿命が少ない時期)に
2. 短期間で亡くなることを防ぎ、命を永らえるために行う治療
と言えます。
具体例を挙げますと、脳死と診断された方への人工呼吸器、癌であと数週間の方への胃瘻、老衰の方への点滴などです。
ただし延命治療の中身は多岐に渡り、心臓マッサージすらも場合によっては延命治療となり得ます。
医学的には延命治療を選ぶべきかどうかは正解がなく、医師の間でも考え方が分かれ、結局は個々人の価値観次第ということになります(ちなみに、すでに回復が見込めないためどちらを選択しても倫理的な問題は生じませんし、ガイドラインも最近いくつかでております)。
延命治療は、寿命を延ばすという効果が期待できますが、ご本人に苦痛を伴うデメリットがあります。
ちなみにどのような延命治療であっても苦痛は伴います。
例えば、意外かも知れませんが、点滴ひとつとっても針を刺す痛みがありますし、管につながること自体が苦痛になる場合があります。
延命治療を選択しない場合は、寿命は短くなりますが、苦痛は少ないと思われます。
■延命治療の難しさ
理屈の上ではこのメリット、デメリットを天秤にかけて意思決定するということになっています。
しかし、実際の現場においては、実はこれがとても難しいのです。
というのも人によって、さらには同じ人でもその時々によって感じ方が全くことなるからです。
例えば終末期というところに関しても、どこからが終末期なのか、残り数か月なのか数日なのかでも感じ方が違いますし、延命治療でどれくらい寿命を延ばしたいのかも異なります。
また、そのための苦痛をどこまで受け入れられるのかも人によって違うでしょう。
さらに難しいことに、このようなことを考える状況では、もはや本人の意識がなかったり、意思を確認できない場合がほとんどです。
その場合はやむを得ず関係者が話し合って決定していることが多いです。
私自身は、「延命治療というものが全て良くない」とは思っていません。
なぜなら、お別れへの準備期間が必要な場合があるからです。
実際、私の経験上でも、最初は「これは延命治療でないかな…」と思っていた例がありました。
しかし、結果的にご本人とご家族がゆっくりと時間を過ごすことができて、とても有意義な最期を迎えることができました。
■延命治療を決める上で大切なこと
一概に「延命治療を希望する、しない」だけでなく、遺される大切な人の気持ちも考慮した上で、自身がどのような状態になったら延命治療をしないで欲しいのか、最期の時に何を大事にしたいのかをよく話し合う必要があります。
これが「人生会議」なのだと思います。
確かに、これを話し合うことは気持ちの良いものではないかも知れません。しかし、自分自身にとっても、遺される人たちにとっても、大切なことであると思います。延命治療について分からないことがあれば主治医の先生や、当サイトの医師相談にお問い合わせ下さい。
お口の健康と在宅療養
在宅生活を続けていくにあたって、誤嚥性肺炎は大敵です。
誤嚥性肺炎とは、飲み込みの力が弱くなることによってうまく食べ物が飲み込めず、肺に食べ物が入ってしまうことで起こる肺炎です。
飲み込みの力は、認知症や脳卒中といった病気だけでなく、年齢を重ねるだけでも落ちてしまいます。そのため、人生の晩期を在宅で過ごす方達に、飲み込み力が落ちている方が多いことも容易に想像がつくかと思います。
私もこれまで、誤嚥性肺炎のため入院せざるを得なくなってしまった在宅患者さんを多く見てきました。中にはその入院をきっかけに、自宅に戻れなくなってしまった方もいらっしゃいました。
何とかこの誤嚥性肺炎を防ぐ方法はないのでしょうか。そもそも飲み込み力が落ちても元に戻れば理想的なのですが、一度落ちてしまった飲み込み力を完全に戻すのはなかなか困難です。実は、純粋に食べ物だけが肺に入るのであれば誤嚥性肺炎は起こりません(厳密には化学的な刺激により一時的な肺炎になることはありますが、いわゆる誤嚥性肺炎とは異なります)。この時に口の中で繁殖した細菌が一緒に肺に入り、肺の中でさらに増えてしまうことで肺炎が起こるのです。つまり、口の中がキレイであれば、誤嚥性肺炎は起こりにくいのです。
そこで口腔ケアが重要になってきます。
在宅の誤嚥性肺炎とは少し異なりますが、入院中の患者さんに口腔ケアを行い、病院内での肺炎が予防できるかを検証したデータがあります1)。
これによると、口腔ケアを行うことで院内での肺炎が約25%減少したという結果でした。完全に無くせるわけではありませんが、肺炎で入院する大事を考えると口腔ケアの効果は大きいと思います。
とはいえ、なかなか口腔ケアが難しいという場合もありますよね。そんな時は訪問歯科を検討されてはいかがでしょうか。
また、最近の訪問歯科では嚥下リハも実施して頂けるところもありますので、飲み込み力のアップも期待できます。
食べることは私たち人間にとってもっとも大切なことの一つではないでしょうか。
少しでも長く口から食べられることはもちろんですが、住み慣れた場所で過ごせるためにも、お口の健康にも気を配っていきたいですね。
1) Cochrane Database Syst Rev. 2016 Oct 25;10(10):CD008367.