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care-eco's magazine

2021/09/26

「お看取り」とは?

「お看取り」と聞くと、皆さんはどんなイメージを抱くでしょうか。 

「縁起が悪い」と感じる方や、「そんなこと考えたくない!」という方もおられると思います。


大事な人がこの世を去るということは耐えられないほど悲しいことです。

私も大切な人が亡くなってしまったことを思い出すと、とても悲しい気持ちになります。


しかし、人間を含め、全ての生き物の命に限りがあることは避けられない事実です。

そしてその最期の時をどう迎えるかということは、その方の人生にとってとても大切なことではないでしょうか。


とはいえ、人生において看取りの経験をすることは少ないと思いますし、イメージがつかない方も多いことと思います。


私は、これまで医師として最先端の総合病院から介護施設、在宅医療まで、様々な場所で多くの方の最期に立ち会わせて頂きました。

私も「人の幸せな最期」というものを模索しているところですが、今までの経験を元に、看取りに対する一般的な心構えを述べさせて頂こうと思います。

◆「人が死ぬ」とはどういうことか

実は、医学的な「死亡」とは厳密に定義することが難しいのです。

というのは、心臓が止まっても、細胞レベルでは人はまだ生きているからです。

実際、死亡診断がなされた後も爪や髪は伸びます。


そこで、私たち医師は、一般的に以下の3つを確認すると、死亡診断をします(脳死の場合を除きます)。

・心拍(心臓の動き)の停止

・呼吸の停止

・脳の動き(対光反射)の消失

そして、人が亡くなるプロセスでは、即死を除いて、この3つが順番に進んでいきます。

この時間経過や順番は病気によりますが、


・脳の動きの消失(意識がなくなる)→呼吸が止まる→心臓が止まる


という順番で、1~2日で経過することが多いと思います。

◆人はどのように最期を迎えるのか

事故や心臓発作などの予期せぬ出来事を除けば、ここに至るまでにはおおよそすべての方が同じような経過をたどります。

それは、 


・まず、動けなくなり寝たきりになる

・そして、食べる量が減ってくる

・水分の量も減ってくる

・そのうち眠ることが増える

・尿の量が減ってくる

・最期が近くなると意識がなくなり反応しなくなる


という流れです。

参考:日本緩和医療学会「これからの過ごし方について」

このスピードは、がんであったり、老衰であったり、病気によって異なりますが、たどる流れは同じです。

そして、これは寿命が尽きた植物が枯れるように、自然な流れでもあります。

おそらく多くの方は「痛みや苦しみがない」最期を望まれるのではないかと思います。

しかし、残念ながら病気によっては最期に痛みや苦しみが伴ってしまう場合があります。

その場合は、苦痛をとりのぞくお薬がちゃんとありますので、ご安心いただければと思います。

◆まずは本人の意向を確認

やはり多くの方はずっと生きていたいと思っておられるのではないでしょうか。

しかし、どうせ死が避けられないのであれば、自分が望む最期を迎えたいという方も多いと思います。

それを叶えたい、叶えてあげたいと思うのであれば、まずはご本人がどう思っているのかを確認することが最初の一歩です。


大事なことは、ご本人の意思確認ができるうちにしておくことです。

とはいっても、いきなりこのような話はしづらいと思います。

例えば、有名人が亡くなったニュースや、近所の方が亡くなったりした時がよいきっかけかも知れません。

◆話し合っておかないといけないこと

それでは、具体的にはどんなことを話し合っておくべきなのでしょうか?


一番大切なことは、その方が「最期の時にどんなことを大切にしたいか?」を共有しておくことだと思います。

なぜなら、後に決めるべきことはすべて、これが原点となるからです。

なかなか難しいと思いますが、まずはその方が迎えたい最期のイメージを共有することから始めるとよいと思います。

例えば、どこで、どんな風に、だれと、どんな表情で、といったことです。

そして、そのように思うのはなぜか、まで話し合えるとより理解が深まります。

◆決めておいた方がよいこと

ご本人が意思表示できない状態になってしまった時、医療の現場では重大な決断をご家族にお願いすることがあります。

これはご家族にとっては大変なストレスになってしまいます。

ご本人が望む最期を叶えるためにも、ご家族が困らないためにも以下のことをあらかじめ決めておくとよいと思います。


1. 延命治療について

延命治療という言葉はよく聞くと思いますが、実は明確な定義はないのです。

一般的には、「回復が期待できない、つまり治療を尽くしても元には戻らない状態になった際に、命を生き永らえる方法を選択する」ことになるかと思います。

しかし、この選択はとてもむずかしく、悩ましいと感じます。


参考記事:延命治療する?しない?


実際は医療者などと相談の上、最終的に決めることになると思いますが、

「そのような状況になった時にどうしたいか、どうしてほしいか」をご本人から聞いておくだけでもかなり違うと思います。

2. 人工栄養(胃ろうなど)をするかどうか

これも延命治療と似ていますが、口から栄養をとれなくなった時にどういった方法を選択するかです。

先ほどのように、最期が近づくと自然に人は口から栄養をとることができなくなってきます。


そういった場合に、胃ろうや太い点滴(中心静脈カテーテル)から栄養を注入する方法があります。


このような方法を選択すると、食べない場合と比べて寿命を延ばすことができます。

しかし、一方でデメリットもあります。 


この選択には正解はなく、どちらを選ぶかは個人の価値観しだいです。

なので、人工栄養に対する考えもあらかじめ聞いておくとよいでしょう。

3. 財産の管理

これは医療・介護とは直接的に関係はないのですが、決めておいた方がいいことなのでご紹介します。


例えばご本人の意識が不明になってしまったり、認知症にかかってしまったりすると、お金が必要な時でも銀行の口座から引き出すことが難しくなります。


また口座はご本人が亡くなると凍結され、預金を引き出すことができなくなってしまいます。


このような時に備えて、後見人制度や資産承継信託といった仕組みがあります。


さらに、生命保険や疾病保険などの受け取りも申告しなければできません。


まずはご本人が持っている銀行の口座や、加入している保険を把握し、対応を決めておいた方が安心です。

◆自宅で看取るにはどうしたらいい?

ご自宅で最期を迎えたいとご希望される方も少なからずおられると思います。


実際にアンケートでも、そのように希望される方が多い結果でした。

出典:平成29年度人生の最終段階における医療に関する意識調査 結果(確定版)


少し前までは病院で亡くなる方が多く、自宅でのお看取りはハードルが高いことでした。


しかし、近ごろでは制度も整ってきており、自宅で最期を迎えることは決して手の届かないことではなくなってきました。


一番のご不安は体調や容体が変化していくことではないでしょうか。


ご家族だけで見ていくのは難しく、専門スタッフの介入が必須となります。


具体的には、訪問診療や訪問看護という医療サービスです。

参考記事:在宅医療ってなに?外来との違いは?


最期が近い時期にはほぼ毎日ご自宅に来てくれますので、不安や心配事を伝えることができます。

<まとめ>

・望む最期を迎えるためには、まず本人の意向を確認する

・「延命治療について」「人工栄養について」「財産管理について」をあらかじめ決めておく

・訪問診療や訪問看護をうまく活用すれば自宅での看取りも可能


いかがでしたでしょうか。


「看取り」は考えたくないことですが、必ず来ることでもあります。

後悔がなるべく少なくなるよう、しっかりと向き合うべきことだと思います。


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安間 章裕(アンマ アキヒロ)
日本内科学会認定総合内科専門医・日本感染症学会認定専門医
2010年 浜松医科大学医学部卒業。亀田総合病院総合診療科、感染症科での研鑽を経て、茨城で在宅医療の立ち上げを行う。その後、地元である静岡県で感染症業務、在宅医療に携わっている。